2024年12月10日

−アートと建築の旅G− フランス【ル・コルビュジエ サヴォワ邸 / ポワシー 】Le Corbusier Villa Savoye / Poissy 1931


デザイナーの橋本です。
昨年末から今年の年始に訪れたフランス旅行の終盤はパリに滞在し「アートと建築の旅」の締めくくりともいえる見学を行いました。

ナンシーでエミール・ガレら芸術家と職人たちの「生活に芸術を取り戻そう!」というアール・ヌーヴォー思想の誕生を実感した私は、アートと建築に関する当時のもうひとつの大きな流れにも関心がありました。

それは産業革命以降の工業的発展を肯定的に捉えながらも、それでいて美しくあるべき、と主張した「ピュリスム(純粋主義)」という考え方です。
この運動の中心になったのがル・コルビュジエで、その思想のもと設計されたのがパリ郊外ポワシーにある「サヴォワ邸」です。

パリから急行列車で30分、登り坂を20分歩くと「Villa Savoye」の標識。
新年を迎えたパリ近郊は気温が下がりずっと雪模様。この日は曇りでしたが、前日までの雪が残っていました。

アートと建築の旅Gフランス【ル・コルビュジエ サヴォワ邸 / ポワシー 】

サヴォワ邸は、広大な敷地の森に囲まれた丘に、週末に滞在する別荘として建てられました。
散歩道のような木々の間を抜けると・・・

アートと建築の旅Gフランス【ル・コルビュジエ サヴォワ邸 / ポワシー 】

教科書で見た青空と芝生とのコントラスト!ではなく、真っ白な今まで見たことのない表情のサヴォワ邸が現れました。

アートと建築の旅Gフランス【ル・コルビュジエ サヴォワ邸 / ポワシー 】

コルビュジエは40代に入り、友人の画家と出版社を作り総合文化誌『レスプリ・ヌーヴォー』を創刊。建築や絵画などの新しい価値観を提示することに努めました。(この頃の身分証には文筆業と記されており、文章で伝えることに重きを置いていたことがうかがえます。)

著書内で「ドミノシステム」や「近代建築5原則」を考案・提唱し、画家としても「ピュリスム」を宣言、頭角を現していきます。

「ピュリスム」(純粋主義)とは、絵画で言えば、対象を幾何学的な形態に単純化し、さらに規整線を用い、黄金比や正方形を基準にした厳格な構図で表現するという手法です。(絵画の規整線が建築の人体尺モデュロールへ発展していきます。)

アートと建築の旅Gフランス【ル・コルビュジエ サヴォワ邸 / ポワシー 】 
コルビュジエ「積み重ねられた皿と本の静物画」1920


サヴォワ邸は、そんなコルビュジエがまさにチャレンジ精神にあふれていたであろう41歳の時の仕事です。
装飾をそぎ落とした幾何学的なデザイン、ガラス材、鉄筋コンクリートなどの新素材の使用など、近代建築に対する考えを具現化した象徴的な作品といえます。

またサヴォワ邸は「建築的プロムナード」として知られる構成で、スロープが重要な役割を担い、横と縦の視点の移動を可能にしています。

まさに建物内を散策路のように歩いてコルビュジエの精神を体感出来ます。
エントランスから。
1F “ピロティ(柱)”部分は、3台の車庫、運転手・使用人の部屋、ランドリールームがあります。
スロープをのぼり2Fへ。

アートと建築の旅Gフランス【ル・コルビュジエ サヴォワ邸 / ポワシー 】

2Fにはリビング、寝室・浴室、子供部屋、キッチン、“屋上庭園”があります。
リビングと庭園は、全面ガラスの効果で、自然の中に身を置いているような解放感があります。

アートと建築の旅Gフランス【ル・コルビュジエ サヴォワ邸 / ポワシー 】

建物の荷重が柱で支えらるようになったことで、外壁は“水平連続窓”の設計など“自由な立面”を可能にし、間仕切りの内壁はなく“自由な平面(間取り)”を実現しています。
壁を水色とピンク色に分け、ダイニングとリビングを視覚的に区別しています。

アートと建築の旅Gフランス【ル・コルビュジエ サヴォワ邸 / ポワシー 】

螺旋階段がフロアの中心にあります。
直線とのコントラストが美しくまるで彫刻作品。

アートと建築の旅Gフランス【ル・コルビュジエ サヴォワ邸 / ポワシー 】

浴室とその奥に寝室。
入浴中にくつろぐソファの形は、コルビュジエの名作椅子「LC4/シェーズ・ロング」を連想させます。

アートと建築の旅Gフランス【ル・コルビュジエ サヴォワ邸 / ポワシー 】

スロープで最上階のテラスへ。
半球型の防風壁は、1F “ファサード”で見た緑色の車庫のカーブと呼応しています。

アートと建築の旅Gフランス【ル・コルビュジエ サヴォワ邸 / ポワシー 】

プロムナードのゴールは、ソラリウムにある「壁に開けられた窓」。
セーヌ川の美しい景色を1枚の絵画のように堪能できます。

見学を終えて、計算しつくされた幾何学のデザインや、美しい比率で構成された部屋や窓などの設計は、まるでピュリスム絵画の中を実際に歩いているような心地よい感覚をおぼえました。

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サヴォワ邸は、芸術が人間に作用するものとして、その関係性を造形を通して探求し続けたコルビュジエの芸術的思考が強く感じられる作品でした。

工業化のうねりに反動するかのように自然との共生を匠の手仕事で実現したナンシー派に対し、工業的発展の流れにのりながら、新たな手法を模索し機能性を追求していったコルビュジエらのピュリスム。
表現は全く違えど根底は、どちらも生活をより良く美しく豊かにという想いは同じだと実感しました。

アートと建築の旅Gフランス【ル・コルビュジエ サヴォワ邸 / ポワシー 】

今回の旅で、コルビュジエの3作品
・サヴォワ邸(1931年、44歳)
・ロンシャン礼拝堂(1955年、68歳)
・ラ・トゥーレット修道院(1960年、73歳)
を見ることができました。

ピュリスムを経て、コルビュジエは「人間と自然との調和」を新たなテーマにし、絵画だけでなく、タピスリー、壁画、彫刻、モニュメント、版画作品の制作にも取り掛かります。
建築家としての飛躍と同時に、芸術家としても成熟していき、晩年「ロンシャン礼拝堂」、「ラ・トゥーレット修道院」へと辿り着くのです。

3ヶ所の訪問で、幸運にもコルビュジエの人生の変遷をたどることとなりました。
深い探求心と挑戦的な精神が様々な表現を手にしていき、より自由に建築と芸術の密接な関係を築くことになり、その結果、相互が融合した素晴らしい作品へ結実していったのだと感じました。

アートと建築の旅Gフランス【ル・コルビュジエ サヴォワ邸 / ポワシー 】



<Une petite pause“ちょっとひと休み”>

パリは公現祭シーズン。
「ガレット・デ・ロワ」(王様の菓子)が街の至るところに並んでいました。
パイの中に隠れているフェ―ヴ(陶製の小さな人形)が自分のピースに入っていたら1年間幸運に恵まれます。
いつか家族でやってみたい!

アートと建築の旅Gフランス【ル・コルビュジエ サヴォワ邸 / ポワシー 】

コンセプト ジュエリーワークス
デザイナー 橋本志織



-旅のブログ掲載中-
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posted by CONCEPT JEWELRY WORKS at 16:34 | Comment(0) | TrackBack(0) | 【SHIORI HASHIMOTO tabi-blog】
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